高校時代の部活仲間と共に、社会人になった今もOBオーケストラでバイオリンを続けている青葉。もう一つの隠した好みは、だが、付き合いの長い友人たちにも打ち明けられていない。そんな青葉に姉が見せたのは、フェルトでできた五台の弦楽器だった。
姉に誘われたのだ、とだけ青葉は言った。嘘では、ない。
姉が自慢げに見せたのは、友人の母親が作ったというフェルトの弦楽器だった。
もう一度、と訪れれば、公募展は終わった後だった。
フェルトのバイオリンに真っ先に飛びついたのは、力ではなく愛だった。
良大の提案は、OBオーケストラのためのものであった――が。
借りられないかと頼めば、喜んで、と作者は笑った。
問題はピアノとハープを置くかどうかだ――その発言は青葉を驚かせた。
本番前に一度、全部並べて配置を検討しなくては。作者の娘は快く、全ての楽器を携えてきた。
何かお礼をしなくちゃ、と知果は以前から言っていたのだ。