「姉ちゃん、今度時間ある?」

「いつの今度だね」

「買い物付き合って。明日……いや、来週でいいや」

 それまでに予習しとく、と青葉は手を振った。

 姉に付き合ってもらったところで、何を買うべきかの見当がつかないのでは話にならない。先に、本屋だ――初心者向けの本を、まずは買ってこよう。自分でやってみようと思ったのは初めてなのだから――手芸用品店は、その後だ。

 作ったんですよ、と見せられるようなものを、いつか。

「じゃ、行ってきます」

「え、OBオケ? そんな時間?」

「ここ来た瞬間からバイオリン持ってんだけど」

 行ってきます、ともう一度言って(きびす)を返す。黄緑のバイオリンが軽く揺れた。

<End>

inserted by FC2 system