「酷いかな。笑えるなんて」

 横になったマオを覗き込むようにしながら、ジョイドは微笑んだ。

「ずっと会えなかったから、君が今ここにいることが嬉しいんだ。会わない間、君がどんな気持ちでいたか、想像しないわけじゃないんだけど」

「笑顔を見られる方が嬉しいよ」

 マオは自分も微笑みを浮かべた。

「……二度と笑顔なんて向けてもらえないようなことを、あたしはしたのに」

「過去のことだよ」

 過去のことだ。マオがそうした――そうしなければならなかった事情は、変わった。

 病気で顔も体も変わり果てたのを見ても、マオを厭わしく感じることはなかった。巻き込まれる(いわ)れのない少女を襲ったと知っても、襲われたのがセディカであってさえも、マオに(おぞ)ましさを覚えることはなかった。ジョイドが去っていくのではないかというマオの恐れは解消したはずで、そうなる前にと自分から追い払う理由もなくなったはずだ。そして、マオが臥せっている間、そのそばにいるジョイドが旅路から遠ざかることになるとしても――。

「トシュは何て話すつもりだろう」

 薬屋に向かった友人の名をマオは呟いた。

「任せていいよ。あいつもちゃんとわかってる」

 勿論(もちろん)、そこをわかっているからといって上手に話を運べるとは限らないけれども、厳密なことを言いたいのではなくて、マオを励ましたいのである。

「あの子も、優しい子だから。わかってくれると思うよ」

「わかってはくれるかもしれないけど。やっぱり、心が痛いよ」

 呟いて、マオは目を閉じた。

 セディカを食べれば、治るかもしれない。

 ただただ生きていたいがために、(すが)りついた――希望。

 予告したとはいえ、夜になってしまった。先延ばしにしていたわけではないが、これも――気が進まないなと、トシュは嘆息した。

 どうしても――マオを擁護したくなる。

 実際には、セディカは噛みつかれてすらいない。捕らえられて閉じ込められた後は、マオの不幸を(とう)(とう)と語り聞かせられていただけだ。

 だが、それが――重大だった。セディカが自分を棚に上げてマオを案じているのは、やはり、異常――おかしい――セディカの精神状態が危ぶまれる、のである。ひょっとしたらマオのせいというよりも、父親から受けてきた仕打ちが自分を粗末にする習慣を染みつかせたのかもしれないし、父親とはまた違うところで、文字通り自分を殺してでも他人に尽くすのが人の道だと教え込まれているのかもしれないが。

 ともかくも薬屋を再訪すると、店は閉まっていたものの、家は活動を再開していた。大丈夫だというトシュの言は信用されたわけである。

「まず、安心していい。やつがおまえを食いに戻ってくることはない。代わりに別のやつを食うこともない」

 先に推測として語ったことを、今度は確定事項として告げれば、セディカは安心から程遠い顔をした。

「死んだの?」

「……核心を聞いてんだもんなあ」

 トシュは頭を()いた。ただ襲われただけであったら、()らしめたから大丈夫だ、で済ませられただろうに。

「まだだ。だが、一両日中に」

 トシュやジョイドの活躍で完治したから、もう誰を襲う必要もないのだ、という嘘も考えられるだろうか。が、それは同時に、マオがのうのうと、(あん)(のん)と生き延びているという嘘にもなる。中途半端に()()()しても仕方ない。

 口元に笑みを作ったのは、単純に自棄(やけ)であったかもしれない。深刻な顔をしていてはセディカが耐えられないような気がしたのも確かだが。

「おまえを食おうが誰を食おうが、別に治らんことがはっきりしたんだわ。万に一つでも可能性があるなら縋りつきたくなるかもしれんが、万に一つも可能性がないんじゃ、最後の()()きにも出ねえわさ」

 ジョイドがそうと確信した次第も、まだ聞く機会を作れていないことの一つである。少なくともトシュの方は、助けを求めて飛び回っている間に、セディカを食べさせれば治るぞとは誰からも教えられなかった。――否、一人だけ、明言した。おまえさんを食べれば治ると言ったらどうする、と訊かれて詰まったところへ、まあ治らんがなと被せられたのだ。おまえさんを食べようが、おまえさんの相棒を食べようが、あの娘を食べようが無駄だと、……そこまで丁(ねい)に教えられても受け入れられなかったから、それからもしばらく飛び回ったわけだが。

 セディカは泣き出しそうだった。マオのために喜ぶべきかどうかとトシュは考えた。セディカのためには、危ぶむべきであろうと思われたけれども。

「後悔してたよ。おまえに謝りたいと言ってた」

 少々迷ったものの、マオに肩入れしたい欲に白旗を上げることにする。

「まあ、勧めないが。目の前で泣かれたら、おまえは流されんだろ」

 そう思っていながら伝えたのは、だが、マオのためばかりでもなく、

「とにかく、あの分なら――死んだ後に逆恨みして、悪霊になって出てくるようなことはねえだろうよ」

 これを言っておきたかったためでもある。トシュも流石(さすが)に、死んだ後のことはよく知らないし、そもそも逆恨みで(たた)れるものなのかどうかもわからないけれど。

 セディカは途方に暮れたような、思いつめるような――否、重大な決断を前に(ちゅう)(ちょ)するような、風を見せた。

「絶対に……食べないのね?」

「ああ。請け合う」

「だったら」

 決死の(ぎょう)(そう)、と評するところだろうか。食い入るような、顔つきと目つき。

「あの人のところに連れていって」

 ――青年は唖然として少女をみつめた。

 マオが謝りたがっていると言ったところなのだから、唐突な要望でもない、が。

 セディカの方から、会いたいと?

「何をしに」

 咎められたかのように、セディカは目を泳がせた。

「だって……死ぬんでしょ」

 絞り出すような声だった。

「大丈夫ですって、言ってあげないと。わたしが、言ってあげないと。わたしのことで苦しみながら死ぬんでしょ……」

 わたしのせいで、とでも言い出すのではないかと思ったが、そこまでは行かずに、消え入るように切れた。

「……伝書鳩なら、やるぞ?」

「トシュの伝言じゃ駄目よ」

 苦笑のように口元が(ゆが)む。

「わたしがあの人だったら、きっと信用できないもの。わたしが酷いことを言っても、トシュはあの人に優しいことを言うでしょ」

 トシュはしばし、沈黙し――同じように困惑している、セディカの従伯父夫妻に目を向けた。

「本人はこう言ってるが。保護者としては、どうだ」

 周りが驚くのは当然だ。

 理由を追及されたら、答えられる気がしない。ということは、全ては思い込みの偽物なのかもしれない。会わなくては、言わなくてはと、()き立てられるような恐怖も、胸の詰まるような焦燥も。気持ちと勘違いした何か。感じたと誤解した何か。中身のない、雰囲気だけの空虚。

 こんな時間に連れ回せないとトシュが言ったから、翌朝になった。明るいところで向き合えば、女性は一層、弱りきった無力なだけの存在に見えた。

 ベッドの(かたわ)らにいるジョイドは、病人の方の身内であるかのようだった。こちらをみつめるまなざしは、心配しているというよりも――支障のあることを言いはすまいかと、注意しているような、気がする。

「ごめんよ」

 女性は言った。

「ごめんよ。怖かったろう。怖い思いをさせた」

 怖かった。確かに。

 屋根の上まで吹き上げられたのも。そこから地面の方向へ一気に突っ込んだのも。倉庫の暗がりに放り出されたのも。荒い息を吐きながら、見知らぬ女性が迫ってきたのも。

 あのとき、セディカはただ――(おび)えた。

 外へ出してくれとも、助けてくれとも、嫌だとすら、言えなかった。

 顔を覆って泣いたのは女性の方だ。首を振って嫌がったのは女性の方だ。誰か他人に命令されてのことなのかとさえ、思われたほどに。それから、勇気を奮い起こすようにして――。

 女性の顔が歪む。

「あんたは、あたしを……あたしに襲われたときのことを、この先何度も思い出すんだろう。怯えて過ごす破目になるんだろう。生きていくのに……この先のあんたの人生を、あたしは」

 セディカは目を(みは)った。自分では気の回っていないことだったので。

 ――ああ、謝りたいのはこれなのだ。過去のことよりも未来のことなのだ。

 恐怖を植えつけてしまっただろうと。例えば暗がりが、例えば他人が、あのときの恐怖を繰り返し呼び起こして、将来に渡って苦しめることになるのだろうと。襲いかかって捕まえて、けれども食べずに逃げ出した、それで終わったとは考えていないのだ。これから先の――自分が死んだ後のことを……。

 (こぶし)を握る。やはり、来るべきだったのだ。顔を合わせて、言うべきなのだ。

「わたし……大丈夫ですから」

 我ながら引き()った声になって、少し呼吸を整える。

「前にも殺されかけたことがあります。父に――本当なら守ってくれるはずの人に」

 自分の不幸を主張するようだろうか。違うのだ。言いたいのはそこではなくて。

「それでも、何度も、助けられてます。関係ないはずの人たちが、何人も、何度も、たくさん、助けてくれてます。わたしは、(ずる)いくらい……幸運で」

 運がよかっただけだ。切り(ひら)いたのではない。勝ち取ったのではない。何かよいことをした褒美ではない、適切なことをした報酬ではない――。

 何の謂れもないのに生きているほどの、幸運。

「だから……何も、怖くないです」

 女性はしばし、セディカをみつめた。対決ででもあるかのように、セディカもみつめ返した。

 それから女性は目を上げて、セディカの後ろに控えているトシュを見た。

「二人きりにしてくれないか」

「二人きりにしてよかったの?」

「マオがセダに何をするって?」

 意味ねえのに、とは言わなかったが、そういうことである。セディカを哀れんで思い(とど)まったのだったら、再び翻意する可能性もあろうが。

 青年たちは病人の願いを()れて病室の外に出ていた。加害者の要求を認めて被害者と二人きりにした、という意味では随分な非道なのだけれども、セディカをここに連れてきた時点でトシュは腹を(くく)っている。

「それはおまえの判断でしょ。マオが同じ情報を持ってて、同じ結論を出すとは限らないんじゃないの」

「おまえは?」

 閉めた扉に体と顔を向けたまま、視線だけを横目に投げて、トシュは短く問うた。

 ジョイドは口を奇妙に歪めた。

「――俺がマオよりセディを選ぶと思う?」

 そこで一度切ったのは、何かしらの反応があることを予期したのかもしれない。が、トシュが無言でいたためか、長くは待たずに先を続ける。

「セディが効かないなんて誰が言ってるの。それが本当だってどうしてわかるの。マオの体のことは、マオが一番わかってるんじゃない?」

「だったら?」

 これは問うたというよりも本題を(うなが)したのである。

 マオの恋人は一呼吸置いた。

「おまえをセディから引き離したとは思わないの?」

 ――トシュは目を細めた。

「まともにぶつかったんじゃ、俺が敵うはずがないけど。ずっとここにいたんだ。呪符でも陣でも、幾らでも仕込める。セディに何かあってもおまえに気づかれないようにすることだって、おまえをそこから動けなくすることだって、造作もないと思わない?」

 扉の向こうで何が起こっていてもわからないように。隠されているとすら、()()られないように。そうと悟って中に飛び込もうとしても、叶わないように。

 数秒、そのまま睨んでいてから、ふっと息を吐く。

「そうしたいのか?」

 ややあって、ジョイドも肩の力を抜いた。

「そうするべきなのかなって」

 追いつめられた声音ではなかった。仮令(たとえ)一時は本気でそのように悩んだのだとしても、自分にできることではないと既に諦めたのだろう。

「マオを愛しているなら、マオのために何でもできるはずじゃないかって。やってみなくちゃわからないのに、無理だと言われてそうですかと引けるわけがないじゃないかって。倫理や道義なんかで諦めるはずがないんじゃないかって……大体、妖怪が人間を食べて何が悪いの」

「悪かねえよ。狼が鷹を食おうが(うさぎ)を食おうが、鷹と兎に憎まれるだけで何の問題もねえのと同じだ」

 それは否定できないのである。

 トシュは親指で病室を指す。

「セダは俺とおまえを信用してそこにいるんだ。あいつと俺を騙してあいつをそこに送り込んだことは罪になるだろうな。けど、あいつを食ってもどうせ治りゃしないとわかってたって、あいつを食うことは別に罪じゃない」

 俺は止めるが、とは言わなかった。

「食わせてみたいか?」

 今はジョイドの方が扉をみつめている。視線の先に想定すべきはマオだろうか、セディカだろうか。

「マオを助けたいのかな。自分を認めてほしいのかな」

「おまえがどんだけマオにぞっこんかは俺が知ってるよ。自分に酔ってるだけじゃないのも知ってる」

 呟きに、トシュは笑った。証拠も証明もいるものか。

「物を考えられるなんて……我を忘れてないのは、やっぱり大して好きでもないからじゃないかって、どうしてもね」

「マオの優先順位を下げたってことだとか言うやつがいたら、そいつが地獄に落ちるように祈ってやるわ」

「〈慈愛神〉に?」

「〈冥府の女王〉に」

 それはさすがに真実味がないとばかり苦笑しかけたジョイドは、トシュの返答に一瞬呆気(あっけ)に取られたようだった。そんな祈願は〈慈愛天女〉には無論そぐわないわけだが、〈冥府の女王〉では反対に似合いすぎるのだろう。その名の通りの、冥府の主神。

「……おまえが祈ったら聞き入れられかねない気がするなあ」

「何、親父の七光りだ」

 お安い御用だというような調子で狼の息子は言った。

 ややあって、ジョイドは両手を上げて顔を覆った。泣きそうだ、ということではなかったが――トシュは唇を引き結んで扉に目を戻した。

「あれらがいたんじゃ、無理をするんじゃないかい」

 トシュとジョイドが出ていくと、女性は苦笑らしい顔をした。

「あれらの前じゃ、責めたくても責められないだろう」

 そのように言われた理由をセディカは考える。

「……二人が、傷つきますか」

「トシュは傷つくっていうんでもないだろうけど」

 これは少し、素に近い笑いだっただろうか。

 鎌をかけた、とはならないだろう。トシュはともかく、ジョイドには隠そうとする()()りもなかった。気遣わしげに、愛おしげに、マオに穏やかなまなざしを向け、柔らかな声をかけていた。トシュもその様子を苦々しく眺めているようなことはなかったけれども、セディカを見やってはらはらしていたような気はする。

 勿論、単に見知っているだけでなく親しい間柄なのだと、従伯父(いとこおじ)従伯母(いとこおば)再従姉(はとこ)のいるところで言うわけにもいかなかっただろう。それがわからないセディカではないから、騙したのかと怒り出しはしない。板挟みだろうなと、同情めいた気持ちは湧いた。

「二人の前だから遠慮してるんじゃないです。傷つけたくはないですけど」

 ()いて、微笑む。女性といいトシュといい、無理に笑顔を見せようとしているのは明らかなのだから、セディカの笑みが同様に強張っていても大目に見てくれるだろう。

「二人が本当に駆けつけてくれるんだってわかって……わたしのせいで迷惑がかかったなんて言う人もいないって、わかって……心強くなったぐらいだし……」

 これでは先ほどの繰り返しだと、言いながら思う。気遣いだと思われて本気にされないようでは、トシュ任せにせず自ら乗り込んできた甲斐がない。

 何と言えばよいのだろう。何と言えば――楽にしてやれるだろう。

 そんな風に考えていること自体が、従伯父夫妻やトシュを心配させるのかもしれなかった。セディカとて、自分がどんな目に遭ったかを理解していないわけではないのだが。

「わたしがあなたと二人でいられるのは、あなたが怖くないからです。怖い……酷い人だと思ってないからです。あなたは……わたしを説得しようとしてるみたいだったけど、本当は……あなた自身を説得しなくちゃいけなかったんでしょう。こうするしかないんだって、自分に言い聞かせて」

 言葉を継いでいくうちに、ふと思いつくことがあった。後から思いついたことが正解であるというものではないけれども。

「……わたし、あなたのことがあったからって」

 少し、迷って。

「ジョイドと疎遠になったり、しませんから……」

 女性は目を円くした。

「……どうして、あたしが恐れてることがわかったんだい」

 その目が(うる)むのを見て取って、震える息をセディカは吐いた。これ――だ。

 わかった、のではない。自分ならそれが怖いというだけだ。自分のせいで、大切な誰かが、他の誰かとの縁を失うとしたら。

 響いたのは、つまり、似ている――からだろう。同じことに痛みを感じるからだろう。普通に知り合って普通に付き合っていけば、気が合って親しくなれた相手だったのかもしれない。

「ああ、そう、あたしは、ジョイドから……あんたを奪わずに済むんだね……」

 目を閉じた女性の、その閉じた目の(ふち)から涙が流れ落ちた。締めつけられるようだった胸がほぐれていくのを、セディカは感じた。

 加害者に会いに来たのではない。死にゆく者に――会いに来たのだ。

 トシュに送られて、家に戻った。

 トシュが付き添ったからといって、セディカも雲に乗れるわけではない。トシュの技術の問題ではなくて、修行を試みたこともないような人間では、雲が重みに耐えられないのだそうだ。あの女性の――マオ、というのだった――家へは、歩いて行った。

 否、里の外へ出てから、人目がないのを見澄まして、トシュがセディカを抱えて運んだ――走って。仙術によるのか妖術によるのか、風のような速さであっという間に着いた。帰りも同様だったけれども、運搬は里の大分手前で終わった。人に見られても困りはしないが、面倒ではあるとのことで。

「どうも。お嬢さんをお返ししますぜ」

 出迎えた従伯母を前に、トシュは敬礼の真似をした。おどけてみせたのは、その一瞬だけだったが。

「――俺はまあ、危険はないと考えたから連れてったわけだが。あんたたちには判断材料も何もなかったわけだろう。よくセダを預けてくれたな。痛み入る」

 目の前でそんな風に言われると、セディカとしてはどうしてよいかわからない。

「トシュどの。時間を作りますから、詳しい事情を説明いただけませんか。何もわからないままでは、みなが不安がります」

 店主の妻はそちらを言った。そりゃそうだ、と方士は頷く。

「全部片づいたら報告に来させてもらおう。細かいところがはっきりしないんで、今、半端に話すのはやめとくが」

 トシュは長居せずに去った。セディカは従伯母に向き直る。

「止めないでくれてありがとう。……心配かけて、ごめんなさい」

「やっぱり行かせるべきだったって、後から思っても遅いもの」

 困ったように笑んでから、従伯母は真面目な顔になる。

「でも、自分が被害者だっていうことを忘れないのよ。あの人が罪の意識に苦しみながら死んでいったとしても、それは自業自得だわ」

「うん。わかってます。……でも」

 セディカは(うつむ)いた。

「人が死ぬって……怖くて」

 それなのだ。そのためなのだ。自分こそが死なせてやると言われながらも、マオに同情せずにいられなかったのは。

 ややあって、従伯母は従姪(いとこめい)を抱き寄せた。少女は母代わりの腕の中で静かに泣いた。

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