むかし、大河をはさんで二つの国がありました。二つの国はたいそう仲がわるかったのですが、中には大河をわたってとなりの国へ行く人もおりました。

 ある日、わたし舟に、お父さん、お母さん、子どもの三人かぞくと、二人ぐみの旅人がのりました。三人かぞくは大河のこちらがわ、旅人たちはあちらがわの国の人でした。お母さんは子どもに、旅人たちは大河のむこうの国の人で、何をするかわからないから、近づいてはいけませんよと言いました。

 舟が大河のまん中まで来たとき、きゅうにつよい風がふきました。舟がかたむいて子どもはおちそうになりましたが、旅人の一人がだきかかえて、たすけてくれました。

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 お母さんが近づいてはいけませんよと言ったのをおもいだして、子どもはいそいで旅人をつきとばし、にげだしました。ちょうどそのとき、もう一度つよい風がふいたので、はずみに旅人は舟からおち、そのまま流されてしまいました。

 お父さんは、もう一人の旅人がおこって何をするかわからないと思い、そちらの旅人もつきおとしました。わたし守はこちらがわの国の人だったので、何も言いませんでした。

 わたし舟は大河のむこうにつき、お父さん、お母さん、子どもの三人かぞくだけがおりました。

 子供の命を助けられても、偏見は改まりませんでした。

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